いつもご覧いただきありがとうございます。
今後 本作品に関わる攻略や研究結果を公開できたらなと考えています。
1991年、モスクワで開発中の細菌兵器が漏れ、東欧やユーラシア大陸の80%が壊滅、世界人口の約半分が死滅した。
そして、50年後。
舞台は2042年12月、瀬戸内海に浮かぶ人工島—ネオ・コウベ・シティ。
謎のバイオロイドが出現し、人を殺害。密かに本人とすり替わることからスナッチャーと呼ばれた。
対スナッチャー用特殊警察—JUNKERに配属されることになった主人公ギリアンは、3年前に妻のジェミーと共にシベリアで発見され、過去の記憶をすべて失っている。
そんなミステリアスな状況でスタートする作品。
※本稿は主にPC-88版を中心に書かせていただいています。
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PC-88版『スナッチャー』—シリーズの元祖
『スナッチャー』は1988年にパソコンの名機、PC-8801mkIISR以降の対応作品として登場しました。
パッケージ
PC-88版『スナッチャー』の製品パッケージ。 発売当時に購入したので やや傷んでしまっていますが、いまでも大切にしています。
パッケージの裏面。スナッチャーの恐怖をあおる文章が並んでいますが、実際には もっと深いところに作品の神髄があります。
ネオ・コウベ・シティの夜景の中央は、JUNKER本部があるコナミ・オムニビル。
製品仕様
発売日 | 1988年11月26日 |
メーカー | コナミ株式会社 |
価 格 | 8,800円 |
対応機種 | PC-8801mkII SR / TR / MR / FR PC-8801 FH /MH / FA / MA PC-88 VA / VA2 / VA3 |
メディア | 5"2D (5枚組) ※5インチ フロッピーディスク |
サウンド | FM音源ステレオ対応 サウンドボードII対応 |
備考 ※パッケージ裏面より | BGM 40曲 効果音 81音 画面数 200 シナリオ原稿用紙 900枚 |
ここでは『スナッチャー』を語るうえで、ポイントとなる要素を技術的な側面から紹介していきます。
無駄のない洗練された設定
ギリアンと相棒の役割
捜査はプレイヤーであるギリアンが、案内役のメタルギアmkIIを連れて行動することになる。このメタルギアは攻撃できるような武器の装備はなく、ゲームの途中経過の記録やビデオフォンとして使用するなどの いくつかのツールとしての役割が与えられている。状況分析などは、そのようなコマンドが用意されているわけではなく、物語の進行のなかでメタルギアの判断で行われる。メタルギアはサポートするギリアンの性格や行動パターンなどを考慮してプログラムされており、最適なコミュニケーションがとれるはずのロボットであるが、どこかふたり(?)のやりとりは皮肉まじり。そんな関係ではあるが捜査の状況を的確に整理をして提示してくれ、単に事務的にヒントを与えるだけの役割になっていないことに好感がもてる。
そしてプレイヤーである主人公ギリアンは記憶喪失であるという点も見逃せない。
この手法はゲーム的にいえば、プレイヤーが知らないことはギリアンも知らないという状況をつくりだし、プレイヤーとの間の知識や価値観の差を埋め、一体感をつくりだす。その仲介役にナビゲーターであるメタルギアが補足をする。そしてシベリア中立領土で妻のジェミーと共に発見されたことや、記憶の中に かすかに残るスナッチャーという言葉の存在も、安易に記憶喪失に頼らない深い考えがあっての設定といえる。
不気味さの象徴としてのスナッチャー
彼らは冬になると出現し、ヒトとすり替わる。対象となる人物の身長の差異は、成人の大人の範囲であれば伸縮でき本人と同じ背格好になれる。ただ子供や老人は範囲外となるためスナッチできない。そしてスナッチャーは人工皮膚をまとい汗や血を流すことができ、オリジナルの人間と区別できない。そんなところまで設定されている。
そしてプロローグでも語られるように、国籍、目的、正体不明。某国の新兵器か、宇宙からの侵略者か、というフレーズも現実味がある。そんな正体がわからないスナッチャーの存在からくる不信感などが非常にうまく表現されている。目の前にいる人物がスナッチャー かもしれない。しかし調べようにも人権保護の観点からJUNKERであってもスキャニング令状が必要になるなどの細かな設定が活きてくる。
システムの特徴
本作は一般的なコマンド選択式のAVGではありますが、PC-88のキーボードのテンキーがそのままコマンドに割り当てられている番号に対応しているた め、とても操作がしやすい。キーボードは単にコマンドの選択デバイスだけにとどまらず、物語の進行上 必要なシーンで使用されることになり、この作品がもつ懐の大きさに感心。
推理が必要となるシーンやスピード感があるシーンなどがうまく散りばめられていて、またAVGであ りながら反射神経が必要とされる銃撃戦やパズル的なミニゲームをこなすシーンもあり、飽きさせない工夫がなされている。
またフラグ立ての手順についても、ユーザーに分かりやすくそれとなく示され、何をすべきかを意識させる配慮も感じられる。プレイ中に このようなたくさんの手法が取り入れられ成立している作品だと気づかされる。
射撃シーン~キーボードと絶妙な相性
ゲーム進行中に発生する、スナッチャーやその警戒用ロボットであるインセクターと行うことになる銃撃戦も本作のアクセントとなっている。応戦するには まず「ブラスターを構える」という操作が必要となるが、これは[SHIFT]キーを押すことでその動作を表現している。
ブラスターを構えると画面が3×3の9マスに分割され、どのマスに発射するかをテンキーで指定するというシステムを採用している。これはパソコン版ならで はの仕様といえる。いわばモグラ叩きのゲームのように、その対応している9マスのいずれか指定することになり、少しずらして撃つといった概念はない。
ブラスターの使用に[SHIFT]キーを押さなければならないことや、3ライフ制のダメージカウント、そしてゲームオーバーの概念もあって緊張感を与えてくれる。
サウンドボードIIへの対応
本作品はサウンドボードIIの対応により、ステレオサウンドで楽しむことができる。この対応のより通常は、FM音源6音、PSG音源3音、リズム音源6音、PCM音源1音に拡張されるが、あえてリズムやPCMの機能は使用せず、波形メモリ音源のみで楽曲を勝負しているあたりが、サウンドにこだわるコナミらしい選択といえる。音色はコナミのMSX製品でよく活用されていた拡張音源であるSSCの、特徴的な”あの”スネアドラムをPC-88で再現しているようなサウンド。
BGMとして使用するだけでなく、効果音とその強弱による演出、近未来的なピコピコした音や、水が流れる音などにも活用され、音の演出にも余念がない。さらには”音を鳴らさない”シーンをあえてつくることで緊張感を演出している点も見逃せない。
マニュアル
操作方法の説明の他、下描きや絵コンテ、企画コンテ、そして『スナッチャーワールド』の設定資料集が収録されている。またこの作品の世界情勢や交通、社会現象、環境問題、産業など、そしてスナッチャーがかかわる事件の年表やJUNKERの規程、プロローグを描いたコミックまでもが掲載されていてゲームプレイ以外の手法でも物語を紡いでいる。
すべての情報がゲームの進行に必要ではないが、作中で触れられない情報の補完として活用すると理解が深まる。
関連商品
サントラ『スナッチャー』
オリジナルであるPC-88版のサウンドボードII音源によるアルバム。
サウンドに乗せて外国人声優によるミニドラマが展開される。PC-88の制約から実現できなかったが、開発陣は当初から声優に演技をさせたかったのかもしれない。英語のセリフが入ることによって賑やかに聞こえるかもしれないが、要所ごとに挿入されることで物語のイメージが補完できる。添付のライナーノーツには開発スタッフのトークがまとめられているが、’80~’90年代の軽いノリが気になるところ。
他に本アルバムで使用しているセリフの台本(日本語訳あり)や譜面の掲載あり。そして最終ページには、PC-88版には存在しないシーンの絵コンテが数点 掲載されており、当初から『スナッチャー』の完成形が予定されていたことがうかがえる。約4年後に発売されるPCエンジン版で初めてこのシーンを体験することになるのだが、それでも一部が絵コンテとは異なっており、何か別の展開が用意されていたと推測できる。
いずれにしても当時はPC-88版が物語のすべてであると思っていたとき。資料などから読み取れる情報から、スナッチャー作品の奥深さが感じられた。
書籍『チャレンジ!A.V.G & R.P.G V』
ゲーム評論家である山下章氏 著の人気ゲーム攻略本の最終号。
特徴は従来の攻略記事ではなく、ご本人のこだわりで『スナッチャー』の物語を小説風に書き起こしている点。個人的には攻略記事の方が整理しやすいと感じているため、大量の文章に圧倒される。当時に購入した時からずっと抱いている感想。
PC-88版の最大の敵—未完の物語
『スナッチャー』シリーズ初の作品でありながら、すでにAVGとして完成されていたため、その後も何度もクリアした作品だが残念な点も。
配色についてコマンド一覧は黄色、一般的なセリフは白、その他 水色、赤などたくさんの色を使用しているため、テキストの表示エリアはカラフルなのが気になるところ。またアクセスが多く、ひとつのコマンドを実行するたびにメッセージをディスクから読み取るため、様々なことを試しながら進むAVGとしては、システムまわりの改善を希望したい。
そして最大の不満は、PC-88版は容量の都合で肝心な物語が完結していない点。当時は物語自体が「完結しない あやふやな状態で終わる」という認識で、決して物語に続きがあるとは思えない印象で、ユーザーにとってはとてもストレスが残る作品だった。
しかし‥‥。
約4年後にPCエンジン版『スナッチャー』が登場することで、それまでの消化不良だった物語が一気に進展することになる。
PCエンジン版『スナッチャー』の登場を補完する貴重な販促アイテム。
シングルCD『スナッチャー●サウンドクリップ』
PCエンジン版『スナッチャー』の発売前に、ゲーム雑誌『PC Engine FAN』の企画で応募者全員に配布された非売品。
(トラック1)PCエンジン版『スナッチャー』のゲーム本編で実際に使用されているオープニング曲「One Night in NEO KOBE CITY」が丸ごと収録されている。
(トラック2)ゲーム本編と同じ「BIO HAZARD」に乗せ、ギリアンがスナッチャーの脅威について語るが、後半ではゲーム本編とはまったく異なるセリフが続く。まだ用語が定まっていない時期だったのかルシファーαの事故を”大魔王の大参事”と呼称している。ゲーム本編では単に”大参事”という。)
ユーザーの手に渡るものとしては、ここで使用されている2曲は、おそらく これが初の公開となる。
(トラック3,4,5)ショートストーリーとなり、スナッチャーの追跡やジェミーとのやりとりなどがギリアン視点で描かれているが、全体的にセリフが臭く 浅めの展開。メタルギアが機械的な口調であったり、ジェミーの声優が異なっていたりと その違いも楽しい。使用曲はPC-88音源による曲(THEME OF KATHARINE , PREASUR OF TENSION , THEME OF ENDING)や『SDスナッチャー』の曲(THE PEACEFUL AVENUE)も使われており豪華なつくり。
(トラック6)ゲーム本編で使用されている重要なセリフをつなぎ合わせたトレーラー音声になっている。ジェミーはゲーム本編の声優(井上喜久子氏)。